地球温暖化が進む中、家畜から排出されるメタンや一酸化二窒素の温室効果が深刻な問題となっています。特に日本の農業において、畜産業がGHGの大部分を占め、その中でも酪農が欠かせない存在です。しかし、神戸市の「弓削牧場」は、危機的な状況の中で地域に根ざしたサステナブルな酪農を実践し、未来への希望を示しています。
創業は1943年。初代弓削吉道が戦時下の食糧難に立ち向かい、電気も水道もない状況から六甲山麓で酪農を始めました。約80年にわたり、神戸市街地に近い場所で放牧酪農を実践してきた弓削牧場は、環境への配慮と共に、多くの課題に果敢に挑戦し続けています。
現在、酪農業界は生乳の生産調整や資材高騰、後継者不足などに悩んでいますが、弓削牧場はその中で例外的な存在です。約40頭の牛たちはストレスなく自由に動き回り、天然水と牧草を与えられ、低温殺菌・ノンホモ処理された濃厚で風味豊かなミルクを生み出しています。
弓削牧場は酪農だけに留まらず、国内で最も早く国産チーズの製造を始め、その品質は神戸の三ツ星レストランや食品専門店で高く評価されています。さらに、バイオガスプラントによる発電や有機肥料の製造にも取り組み、地域との連携を強化しています。このプラントは神戸大学との共同研究によって開発され、メタンガスをエネルギーに変換しています。
弓削牧場の取り組みは、未来のための循環型農業の一環として広がりつつあります。牛たちの糞尿から得られる液肥は有機JAS認証を受け、農薬や化学肥料を使用せずに育てられた野菜やハーブに活用されています。これにより、循環型農業の輪が広がり、持続可能な生態系が形成されています。
弓削和子氏は「循環型酪農の姿を伝え続けることが重要だ」と語ります。彼らの取り組みは、食糧危機や食の安全の課題に対する真剣な取り組みとして、未来への示唆を提供しています。弓削牧場は、酪農業界の課題に立ち向かいながら、地域や次世代を含む広範なエコシステムの一部となり、その価値を次世代に引き継ぐことを決意しています。
(写真:弓削牧場)